中国の不動産バブルが崩壊した理由 – CNBC の動画紹介

どうも。gochaです。

今回は、CNBC の YouTube 動画『How China’s Property Bubble Burst』を紹介します。最後に見解を纏めます。

ref: CNBC – How China’s Property Bubble Burst

チャプター

この動画にはチャプターの案内がなかったので、確認してもらいやすいようにいくつかに分けてみました。

タイトルは、内容に沿うようにこちらで準備したものです。あしからず。

  • 00:00 … 現在の中国不動産市場で何が起きているのか
  • 00:39 … 中華人民共和国のはじまりと、土地や住宅に対する姿勢と移り変わり
  • 01:54 … 中国不動産の仕組み
  • 02:48 … 中国不動産のバブル発生の起源、1994年に起こったこと
  • 03:47 … バブルの発生
  • 05:42 … バブルの崩壊
  • 06:57 … 需要の低迷と今後

ざっと翻訳 ときどき補足

↑で区切ったチャプターごとにざっくり翻訳しながら、補足と見解で補います。

間違った訳があるかもしれません。「え?」と思ったときには、ぜひオリジナルの動画を参照してください。

① 現在の中国不動産市場で何が起きているのか

「この金塊を、家を買う代わりに受け取っていただけますか?」
「この電話ではどうですか?」
「新しい車ではいかがでしょうか?」

ばかげた質問に聞こえるかもしれません。しかし、これらは2023年に中国の家を買う人々に提供された実際のインセンティブの一部に過ぎません。

金塊を提供した Huafa Tianfu のような不動産開発業者は、売り上げを増やそうと必死になり、創造的になることを余儀なくされた。

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金塊の話は、イギリスのガーディアン紙で報じられていた模様。記事のタイトルは『市場の減速に伴い、金塊で中国の住宅購入者を誘惑する』な感じでしょうか。

参照:Gold bars used to lure Chinese homebuyers amid market slowdown | The Guardian

このような話は、開発業者の負債が数千億ドル、地方政府の負債が数兆ドル、そして少なくとも数千万の空きアパートが関係する危機の氷山の一角に過ぎません。

② 中華人民共和国のはじまりと、土地や住宅に対する姿勢と移り変わり

中国の不動産市場は比較的若く、数十年しか経っていません。1980年代まで中国国内には私有財産がほぼ存在しなかったからです。

1949年に中華人民共和国が成立したとき、共産主義国家は個人の土地所有権を廃止し、中国国民全体のものと宣言しました。代わりに、住宅は社会主義福祉住宅制度を通じて都市の住民に割り当てられました。

1970年代後半に中国経済が改革開放政策に転換したとき、国内には事実上、私有住宅の所有者はいませんでした。しかし、変わろうとしていました。

1980年代の中国の経済実験は、大部分が成功を収めました。国民は自らのビジネスから良い収入を得始め、都市は農村地域からより多くの人々が移動してくるにつれて成長しはじめました。

しかし、この流入を受け入れるための十分な住宅がありませんでした。そのため、国家は住宅改革を開始しました。

1988年に、公営住宅の私有化と商業化がはじまりました。入居者に自分たちのユニットを非常に低価格で購入する機会が提供されました。1998年には、政府は公営住宅の完全廃止を発表しました。

1979年には事実上、中国に自宅を所有している人はいませんでしたが、現在では 80~90% の世帯が自宅を所有しており、20% 以上の世帯が複数の自宅を所有しています。
では、一体いつ間違いがはじまったのでしょうか?

③ 中国不動産の仕組み

中国の不動産市場の仕組みを見てみましょう。

他の市場と同様に、不動産市場の価格は、需要と供給によって決まります。供給が多く需要が少ないときは価格が下がり、供給が不足し需要が高いときには価格が上がります。インフレ、政府の政策、金利などの外部要素がこのバランスを崩す可能性があります。

中国は依然として共産主義国家であり、これらの都市が建設されている土地は国が所有しています。しかし、1988年の改革で、政府は土地使用権と土地所有権を分離しました。そして、土地使用権は、地方政府に与えました。

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ここがポイントだと考えます。つまり、中国で取引されている土地の権利は「土地使用権」であって、いわゆる所有権では無い。しかも、その土地の使用権は地方政府・自治体から販売された、という形になります。

これにより、自治体は土地を商業用途に再区画できるようになりました。土地使用権を私企業および国有企業に売却し、利益を得られるようになりました。土地使用権を得た企業は、その権利をリースホールドモデルで住宅購入者に転売しました。

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「リースホールド」は、借地権付き物件のこと。中国においては、リース期間が70年という「土地使用権」を転売しているということ。

地方政府にとって非常に利益の高い収入源となり、多くの国とは異なり、中国では不動産税の必要性がなくなりました。

④ 中国不動産のバブル発生の起源、1994年に起こったこと

多くの経済学者が、現在の住宅危機の原因は、1994年にあると考えています。それは、中国政府が税制全体を抜本的に改革することを決定した年でした。

経済は成長しており、中央政府はより多くの税収を求めていました。そのため、中央政府は、多額の税金を徴収できるように税制改革を行いました。その代償は、地方政府が負担していました。

同時に、自治体には野心的な成長目標が与えられました。しかし、社会サービスを提供するために使用していた税収は、もはやありませんでした。その結果、土地使用権の販売からの収入を増やすように奨励されました。

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土地使用権の販売からの収入を増やすほかに、地方政府・自治体には選択肢がほぼなかったわけですね。

中国の都市にとって幸いなことに、70年のリースに対する非常に高い需要がありました。1990年代には、1億5000万人の中国市民が都市部に移動し、彼ら全員が住宅を必要としていました。土地の販売から得られる利益は急速に増加し、地方予算の大部分を占めるようになりました。例えば、2010年には、土地使用権からの収入が、地方収入のほぼ70%を占めました。

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CNBC の字幕で「land conveyance」と言っているので誤解を招くかもしれないですが、土地使用権の販売のことであり、他の先進国でいう土地譲渡収入では無いので、ここでは「土地使用権からの収入」と訳しました。

その結果、自治体は非常に活気のある住宅市場にますます依存するようになりました。

⑤ バブルの発生

こうして、建設ブームが誕生しました。不動産開発は、30年間にわたり中国と世界の経済成長を促進しました。一部の推定によると、ピーク時の中国の不動産は、60兆ドルの価値があり、世界で最大の資産クラスとなりました。その過程で、不動産開発業者は、非常に裕福になりました。その中には、おそらく聞いたことがある企業も含まれています。

「中国恒大集団」
「恒大集団」
「恒大集団」
「恒大集団」
「恒大集団」

1996年に許家印(Hui Ka Yan)氏によって設立された恒大(Evergrande)は、不動産ブームとともに急成長した多くの不動産会社のうちの 1 つです。碧桂園(Country Garden)、万科(Vanke)、融創中国(Sunac)などもその一例です。

世界の多くの地域では、住宅購入希望者が、物件を一括購入することはありません。物件価格の一部を頭金またはデポジット(手付金)として支払い、残りは銀行がカバーします。購入者は、時間をかけて銀行に利息とともに返済しなければなりません。

しかし、中国の住宅システムでは、建設を開始する前に、購入者が価格の大部分を不動産開発業者に前払いすることが一般的です。これにより開発業者は、多額の無利子の資金を得て、恒大のような企業は新しいプロジェクトの資金として利用しました。

これは、不動産価格が上昇し続け、人々がシステムを信頼している限り、うまく機能する仕組みです。

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CNBC では解説されていないので補足です。じゃあ、人々はどうやって開発業者に支払うお金を用意するんだ、と思ったのでは無いでしょうか。

これは、銀行や金貸しです。要は、購入する人から見ると、結局ローンを組んでいます。開発側からすると、銀行の融資ではなく、直接購入者からお金をもらえてしまう、という説明をしています。

ただ、これは説明として分かりづらく、本来、このようにしか開発業者が開発していないのであれば、開発業者側にとってはリスクは低いはずです。なぜなら、開発費の多くが前払いだから。

しかし、後にも出てきますが、勿論、開発業者同士も競争しているので、銀行からもお金を借りて開発しています。銀行もジャンジャン融資した。

なので、結局、購入側も開発側も、ジャンジャン融資を受けることができた、ということです。日本で起きたことと、この部分はほぼ一緒と言っても良いでしょう。

そして、実際に彼らが行ったことです。不動産は、迅速に中国国民にとっての投資手段となり、株式市場への投資などの代替手段に選ばれるようになりました。

2008年の国家の経済刺激策と国有銀行に対する信用拡張の指示は、中国の住宅所有への需要を支えました。結果として、一部の市民は2軒目、3軒目、あるいは4軒目の住宅を購入することさえ可能になりました。

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CNBC が「homeownership」と言っているので、そのまま訳すと「住宅所有権」となりますが、実際には土地の使用権と、その土地の上に建っている建物の所有権、と整理すべきと判断してます。

信用が無い、もしくは信用が弱い人にお金を貸し出してバブルが起きてしまうのは、アメリカで起きたサブプライムローンと似ている構図ですね。

世界中の投資家もまた、中国の不動産を安全な投資とみなし、失敗することはないだろうと仮定して投資を行いました。

開発業者もこれに乗じました。例えば、恒大はケイマン諸島を拠点とする海外投資家の投資を呼び込む持株会社を持っていました。これにより、巨大な不動産バブルが発生し、投機、価格の上昇、そして制御できない負債が生じました。

⑥ バブルの崩壊

不動産バブルは、供給が限られた状況で住宅需要が増加したときに発生します。低金利、容易な融資、信用返済の基準の引き下げは、需要を刺激する条件の一部です。しかし、需要が満たされたり、条件のいずれかが抑制された場合、最終的に価格は下落し、バブルは崩壊します。

2013年3月に選出された中国の習近平国家主席は、不動産市場で起こっていることを好ましく思っていませんでした。2017年の演説で、「住宅は住むためにあり、投機のためではない」と宣言しました。これは、彼が頻繁に使用してきたマントラであり、政策はそれに従いはじめました。

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マントラ(mantra)は「真言」と訳されますが、ここでは、この言葉を繰り返し使用した、という意味です。

最大の政策の 1 つに、2020年の「Three Red Lines(3 つのレッドライン)」政策があります。持続不可能な借入を抑制するために、中国政府は事実上、不動産開発業者が借り入れ可能な金額を制限しました。恒大や他のいくつかの民間不動産開発業者はレッドラインの基準を満たせず、結果として、進行中のプロジェクトの資金調達のためにさらなる借金をすることができませんでした。これは、すでに売却した物件を完成させるための資金がないことを意味しました。

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これだけを見ると、中国政府としては2017年からシグナルを出し続けており、バブルがこれ以上膨らむ前に意図的に弾けさせた、と見ることもできます。

「これは災害です。政府は意図的にこれを仕組んだのです。なぜなら、バブルが存在することを懸念していたからです。今回の状況でこうなることは驚きではありません。問題は、国が刺激策をある種の魔法の弾丸のように押し進め続けていることです。しかし、魔法の弾丸はありません。」

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「魔法の弾丸」は、簡単な解決策や手段という意味で使用される比喩表現。ここでは冒頭に出てきた金塊だったり、携帯電話だったり、車だったりするわけですね。

一部屋購入したら、もう一部屋付けます、みたいなのもあったそうです。

⑦ 需要の低迷と今後

不動産バブルは露呈し、収縮をはじめました。

しかし、市場を冷却するのは政府の政策だけではありませんでした。需要も減少しはじめました。都市では、新しい住民の流入が見られなくなっていました。

実際、数百万人もの人々が、新型コロナウイルス感染症によるパンデミック後に都市部を離れ、故郷に戻ることを選択しました。ここでは、いくつかの要因が影響していました。

若い世代の中国人は、数十年で最悪の就職危機に直面しており、安定した収入の不足が住宅の所有を遅らせました。

さらに、中国における入手可能な価格、つまり、住宅価格と所得の比率は、世界でも最悪のレベルでした。2024年の上海の物件の平均価格は、平均年収の48倍でした。比較すると、パリでは収入の17倍、ニューヨークでは11倍です。

中国の人口も、急速に高齢化しています。世界保健機関(WHO)は、2040年までに中国の人口の約30%が60歳以上になると予想しています。サービスの需要を生み出すでしょうが、人口の減少とともに住宅への需要は減少します。

2023年末には、中国の住宅価格は約10年ぶりの最低水準に落ち込み、それに伴い投資家の信頼も低下しました。政府と開発業者は、資産の売却、事業の清算、緊急融資の提供、国家資金の代替手段の模索することで危機を管理しようと試みました。

2024年1月時点で、不動産セクターは8.9兆ドルの未払い負債を抱えています。不動産は中国の GDP の 25%~30% を占め、中国経済の中核的な要素となっています。世界第 2 位の経済大国として、中国が危機を管理するための次のステップは、中国国民だけでなく世界中の人々も注視するでしょう。

まとめ

さて、私は経済素人です。なので、素人の戯言だと最初に断っておきます。

ここまで見てみると、現在の日経平均の上昇、マンション価格の上昇が円安(円弱)によるバーゲンだけではなさそうだと見て取れるのではないでしょうか。

YouTube の無料動画レベルを見る範囲だと、大手新聞の解説委員や、論説委員等の解説でも割と単純化されて語られるケースが多い気がします。

  • 中国土地・不動産バブルの崩壊
  • 中国人高齢化問題
  • 米中経済・半導体戦争
  • 日本円の過去20~30年で見たときの記録的な円安(円弱)

という複雑な要素が絡み合って、各国の中国からの投資引き上げの一部が日本に流入しているというのが自分が漠然と思っていることです。これらを定量的に分析したうえで、日経平均過去最高値、日本の不動産価格上昇、に紐づけている記事・動画・論文を見たことがありません。

私の能力が足りないだけかもしれないので、もしあったら教えてほしいのですが。

ただ、これらは複雑に絡まっているはずですし、どれも0に定量化して語るには影響が大きいはずで、なんらかのシミュレーションモデルやMLモデル等、無料で使えるものがあったら分析してみたいな、と思っている今日この頃です。

最後までお付きあいいただきありがとうございました!