NVIDIA が半導体の巨人と呼ばれるまでの物語 – CNBC の動画紹介
どうも。gochaです。
今回は、CNBC の YouTube 動画「How Nvidia Grew From Gaming To A.I. Giant, Now Powering ChatGPT」を紹介しようと思います。
NVIDIA がどのようにしてゲーム業界の NO.1 サプライヤーから、AI 産業の主役(エンジン)へと成長したのか。
特に CEO のコメントに注力して味わってほしいなと思い、誤解を招かないように多くの補足を混ぜているつもり。CNBC オフィシャルの英語字幕も間違ってたりするので。
チャプター
気になるトピックスに簡単にジャンプできるように、動画のチャプターをシェアしておきます。
- 00:00 … Intro(はじめに)
- 02:04 … Popularizing The GPU(GPU の台頭)
- 07:02 … From Graphics to AI and ChatGPT
(グラフィックスから AI、そして Chat GPT – アプリケーションの遷移) - 11:52 … Geopolitics and Other Concerns(地政学的リスクとその他の懸念点)
- 14:31 … Amazon, Autonomous Cars and Beyond(Amazon、自動運転車、そしてその先)
ざっと翻訳 ときどき補足
動画をチャプターごとにざっくり翻訳して、補足と見解で補います。
間違った訳があるかもしれません。「え?」と思ったときには、ぜひオリジナルの動画を参照してください。
0. はじめに
約30年にわたり、NVIDIA のチップはゲーマーに熱望され、グラフィックスの可能性に変革を起こしている。「GeForce 256」は GPU(グラフィックス処理ユニット)という用語をはじめて普及させ、市場全体を支配してきた。現在、そのチップは、まったく異なるものを支えている。
ChatGPT は、非常に激しい議論を引き起こした。
– これは iPhone 以来の最も革命的なものである。
– ベンチャーキャピタルは、AI スタートアップへの関心が急上昇している。
NVIDIA 応用ディープラーニング研究担当 VP、Ph.D の Bryan Catanzaro 氏は、次のように語る。
「この分野で働いている全員が、いつか世界がこの技術の重要性を理解するだろうと楽観していた。それが実際に起こりはじめていることは、実に興奮する。」
ChatGPT などの大規模言語モデルの背後にあるエンジンとして、NVIDIA は AI への投資に対する報酬をついに受け取った。他のチップ大手を見ると、米中貿易の緊張とチップ不足が緩和され、需要が減少した影で苦戦している。
しかし、カリフォルニアに拠点を置く NVIDIA は、ほぼすべてのチップの製造を台湾の半導体製造会社(TSMC)に依存しており、それが脆弱性となっている。
Evercore ISI シニアマネージングディレクターの C.J. Muse 氏は、次のように語る。
「最大のリスクは、実際には米中関係とそれが持つ TSMC への潜在的な影響である。NVIDIA の株主であれば、これが夜眠れない唯一の理由だろう。」
NVIDIA が不確実な新興市場の先端で揺れ動いたのは、これがはじめてではない。創業者兼 CEO の Jensen Huang 氏が不可能と思われる冒険に会社を賭けたとき、NVIDIA はその歴史の中で何度か破産寸前に追いやられたことがある。
NVIDIA 創業者兼 CEO の Jensen Huang 氏は、次のように語る。
「すべての会社が間違いを犯すが、私もたくさんの間違いを犯した。特に初期には、会社を危機に陥れるものもあった。NVIDIA は小さい会社で、自分たちより遥かに大きな企業に立ち向かわなければならなかったし、完全に新しい技術を開発しようとしていた。」
CNBC は、NVIDIA のシリコンバレー本社で Jensen Huang 氏と会い、この最新の再発展をどのように成し遂げ、ゲームに限らずはるかに広い分野で活躍している舞台裏を知ることができた。
1. GPU の台頭
現在、世界で最も価値のある企業トップ10の一社である NVIDIA は、30年経った今でも創業者が舵を取っている稀なシリコンバレーの巨人である。
Jensen Huang 氏は、次のように語る。
「OpenAI が設立された当初、私は最初のこれ(たくさんの GPU やその他のハードウェアコンポーネントが搭載されたボートを手に取りながら)を、 AI スーパーコンピュータの中に届けた。」
60歳の Jensen Huang 氏は、フォーチュン誌のビジネスパーソンオブザイヤー(2017年)に選ばれ、タイム誌では2021年の最も影響力のある人に選定した。子供の頃に台湾から米国へ移住し、オレゴン州立大学とスタンフォードで工学を学んだ。
90年代初頭、デニーズで Chris Malachowsky 氏と Curtis Priem 氏というエンジニアに会い、当時、映画『ジュラシック・パーク』で人気になったような 3D グラフィックスを PC で実現するという夢について語っていた。
Jensen Huang 氏は、次のように語る。
「30年前に遡ると、PC 革命がちょうどはじまった頃で、コンピューティングの未来とソフトウェアの実行方法について多くの議論があった。CPU または汎用ソフトウェアが最善の道であると信じる多数派がおり、実際に長い間それが最善の選択肢だった。しかし、加速なしには実現不可能だろうと思われたアプリケーションがあると感じていた。」
彼らは、1993年にカリフォルニア州フリーモントのコンドミニアムから NVIDIA を立ち上げた。会社名は、次のバージョンを意味する「N.V.(Next Version)」と、ラテン語で嫉妬や羨望を意味する「Invidia」から NVIDIA とされた。彼らはコンピューティングの高速化を望んでおり、誰もが羨むようになると期待した。
収益の 80% を占める主要な事業は、GPU である。通常、PC のマザーボードに接続するカードとして販売され、AMD や Intel などの CPU(中央処理ユニット)にコンピューティングパワーを追加し、処理を加速させる。
Bank of America Securities シニア半導体アナリスト、Ph.D の Vivek Arya 氏は、次のように説明する。
「当時、NVIDIA は数十ある GPU メーカーのうちの 1 つに過ぎなかった。実際、NVIDIA と AMD だけが生き残った。なぜなら、NVIDIA がソフトウェアコミュニティと非常に良好な関係を築いていたからである。これは、チップビジネスだけではなく、物事を最初から最後まで理解(し、市場のニーズに対応)したビジネスである。」
しかし、初めの段階では、未来は決して保証されていなかった。
Jensen Huang 氏は、次のように語る。
「最初は正直なところ、それほど多くのアプリケーションがなかった。私たちは賢く、大成功へ導く特定の組み合わせを選んだ。それが、コンピュータグラフィックスであり、ビデオゲームに適用することだった。」
現在、NVIDIA は視覚効果の迅速なレンダリングにより、ゲーム業界とハリウッドに革新をもたらしたことで知られている。NVIDIA は、1997年に最初の高性能グラフィックスチップを設計した。設計しただけで、製造したわけではない。なぜなら、Huang 氏は、NVIDIA をファブレス企業(自社でチップの製造施設を持たない会社のこと)にして、チップの製造にかかる非常に高い費用を TSMC にアウトソーシングすることによって資本支出を大幅に抑えることを決意していたからである。
Huang 氏は、TSMC の創業者である Morris Chang 氏に、次のように語っている。
「我々全員を代表して、あなたは私たちのヒーローです。TSMC が行った先駆的な仕事がなければ、NVIDIA は今日ここにはなく、他の数千のファブレス半導体企業も存在していなかっただろう。」
1999年、大半の従業員を解雇し、破産寸前まで追い込まれた後、NVIDIA は世界初の公式 GPU であると主張している GeForce 256 をリリースした。カスタムのシェーディングと照明効果を可能にする最初のプログラマブルグラフィックスカードだった。2000年までに、NVIDIA は、Microsoft の最初の Xbox 向けの独占的なグラフィックスプロバイダーとなった。
Jensen Huang 氏は、次のように語る。
「Microsoft と Xbox が登場したのは、NVIDIA がプログラマブルシェーダー(シェーダー処理の振る舞いをプログラムを使用することでカスタマイズできるもの)を発明したまさにその時であり、今日のコンピュータグラフィックスの進化を定義している。」
NVIDIA は1999年に上場し、株価はパンデミック中に需要が急増するまで大きく変動しなかった。2006年には、CUDA と呼ばれるソフトウェアツールキットをリリースしたことで、最終的には NVIDIA を AI ブームの中心へと押し上げた。CUDA は、NVIDIA の GPU の動作をシリアル(直列)からパラレル(並列)計算へと変換するコンピューティングプラットフォームおよびプログラミングモデルである。
Bank of America Securities シニア半導体アナリスト、Ph.D の Vivek Arya 氏は、次のように説明する。
「パラレルコンピューティングとは、小さな複数のマシンを使用して同時に 1 つのタスクを行うことである。つまり、一度に 1 つのことをとても上手にこなす巨大な兵士を持つ軍隊と、問題を並行して解決できる数千の兵士を持つ軍隊との違いである。従って、これらは非常に異なるコンピューティングアプローチである。」
補足すると、「パラレルコンピューティング」という言葉は、誤解を招くかもしれない。
というのも、パラレルコンピューティング自体は GPU だけでなく CPU でも実現しうる。折角なので、違いについて ChatGPT に聞いてみよう。以下に、ChatGPT 4.0 を利用して得た回答を少し修正して示す。
ChatGPT 4.0(2024 March 1st, 7:00 CET 現在)の回答
パラレルコンピューティングと GPU(グラフィックス処理ユニット)の違いを説明する前に、それぞれの基本的な定義から始めましょう。
- パラレルコンピューティング:
パラレルコンピューティングは、計算処理を複数のプロセッサが同時に実行することで、計算タスクをより速く完了させる技術です。これにより、大規模な計算問題をより小さな問題に分割し、それぞれを同時に異なるプロセッサで処理することができます。パラレルコンピューティングは、CPU(中央処理ユニット)の複数のコア、複数の CPU、あるいは複数のコンピューター(コンピューティングクラスター)を使用することができます。 - GPU:
GPU は、グラフィックス処理に特化したプロセッサですが、近年では一般的な計算タスク(GPGPU: General-Purpose computing on Graphics Processing Units)にも使用されています。GPU は、シンプルな計算を大量に並列で高速に処理するように設計されており、特に画像処理、ビデオレンダリング、機械学習などの分野で有効です。
主な違い
- 目的と設計:CPU は一般的な計算タスクに対して汎用的に設計されていますが、GPU はもともとグラフィックス処理のために、そして現在では大規模な並列計算タスクにも適しているように設計されています。
- 並列処理能力:GPU は数千もの小さなコアを持ち、大量のデータを同時に処理する能力があります。これに対し、CPU はより少ない数のコアを持ち、複雑なタスクやシリアル計算タスクに適しています。
- 適用分野:GPU は、大規模な数値計算やデータ分析、機械学習モデルのトレーニングなど、特定の種類の計算に非常に効率的です。一方、パラレルコンピューティングは、これらの分野だけでなく、さまざまな種類の計算問題に適用可能で、その実装は CPU、GPU、またはその他の専用ハードウェアを含むことができます。
要するに、GPU はパラレルコンピューティングの一形態であり、特に大量のデータを同時に処理する必要がある場合に有用です。パラレルコンピューティングはより広い概念であり、さまざまなハードウェアとアプローチを取り入れて、計算タスクを効率的に処理します。
GPU というと、多くのエンジニアはチップだったりボードだったりその上に載っている SDK(Software Development Kit:ソフトウェアを開発する環境のこと)をイメージするだろう。
ただ、パラレルコンピューティングの技術とは、例えば、複数のハードウェア間をつなぐネットワーク技術や、正しい情報を書いたり読んだりするストレージメモリの技術、暗号やセキュリティの技術とより広範なイメージを持つエンジニアが多いのではないかと思う。
NVIDIA の大きなステップが、常に正しい方向に向かっていたわけではない。2010年代初頭には、Tegra シリーズのプロセッサを使用してスマートフォン市場への進出を試みたが、成功しなかった。
Bank of America Securities シニア半導体アナリスト、Ph.D の Vivek Arya 氏は、次のように説明する。
「NVIDIA は、スマートフォン市場が自分たちには合わないと気づき、すぐにそこから撤退した。」
2020年には、待望のデータセンターソリューションに強い Mellanox を買収し、70億ドルの取引を完了した。しかし昨年 NVIDIA は、規制上の重要な課題を理由に ARM を400億ドルで買収する入札を断念せざるを得なかった。ARM は、Apple の iPhone や iPad、Amazon の Kindle、多くの主要な自動車メーカーにその特徴的な ARM アーキテクチャをライセンス供与することで知られる主要な CPU 会社である。
2. グラフィックスから AI、そして Chat GPT – アプリケーションの遷移
いくつかの挫折はあったが、NVIDIA は 現在、カリフォルニア州サンタクララに新しく建設されたポリゴンをテーマにした本社と26,000人の従業員を有し、NVIDIA の数十億のチップは、グラフィックスに限らず、さまざまな用途に使用されている。データセンターやクラウドコンピューティング、そして最も顕著なのは、AI である。
Jensen Huang 氏は、次のように語る。
「NVIDIA の製品は あらゆるコンピュータ企業によって作られたすべてのクラウドの中に存在している。そしてある日突然、以前には不可能と考えられていた新しいアプリケーションが、NVIDIA に気づいた。」
約10年以上前、NVIDIA の CUDA と GPU は、多くの人が AI のビッグバンの瞬間と考える AlexNet のエンジンだった。AlexNet は、2012年の著名な画像認識コンテストで圧倒した、非常に高い精度を誇る新しいなニューラルネットワークだった。リアルなグラフィックスを作成するのに必要な並列処理が、プログラマーのコードに頼ることなくコンピュータが自ら学習するディープラーニングにも最適であることが判明した。
Jensen Huang 氏は、次のように語る。
「私たちは、会社全体をこれに賭ける賢明さを持っていた。およそ10年前、このソフトウェアの取り組み方がすべてを変える可能性があると早期に見抜いた。私たちは会社を根底から、そして横断的に変えた。私たちが作ったすべてのチップは、人工知能に焦点を当てていた。」
「私たちは会社を根底から、そして横断的に変えた。」の部分を英語では、「We changed the company from the bottom all the way to the top and sideways. 」と言っています。「全体的に作り替えた」とか「すべて作り変えた」とか「1 から作りなおした」みたいなニュアンスだろうと思う。
が、企業のトップでがわざわざ、”from bottom to top” と言っているからには、現場の意見、ひいては顧客やステークホルダーの意見をくまなく聞いて、必要に応じて、最下層にいた人を上に引き上げたり… みたいなことを含んでいるのかなと思い、手触り感を残すためにオリジナルの文章を残しておく。
6年前、Bryan Catanzaro 氏は NVIDIA のディープラーニングチームの最初で唯一の従業員だった。今では、チームは 50人を有し、成長している。
Catanzaro 氏(NVIDIA 応用ディープラーニング研究担当 VP、Ph.D)は、次のように話す。
「10年間、ウォールストリートは NVIDIA に対して、『誰も使用していないのに、なぜその投資を行っているのか』と問い続けた。彼らは、市場価値をゼロドルと評価していた。CUDA が登場してから約10年後の2016年頃に、突然、人々はこれがコンピュータプログラムを書く劇的に異なる方法であり、人工知能において画期的な成果をもたらす変革的な速度向上を実現することを理解しはじめた。」
NVIDIA の AI には、実世界でどのような応用があるのか。
ヘルスケアは、大きな領域の 1 つである。はるかに速い薬の発見や、数週間ではなく数時間で完了する DNA シーケンシングが挙げられる。
NVIDIA ヘルスケア部門 VP 兼ゼネラルマネージャーの Kimberly Powell 氏は、次のように語る。
「私たちは、患者を実際に診断し、試験中の患者の 1 人に心臓移植を実施して、遺伝子解析技術のギネス世界記録を達成した。その結果が現在も元気に過ごしている13歳の少年であり、てんかん発作を持つ 3ヶ月の赤ちゃんには、抗てんかん薬を処方することができた。」
また、NVIDIA の AI によって支えられたアートがある。例えば、Rafik Anadol 氏による建物全体を覆う作品などがある。
そして、暗号通貨がブームを迎えたとき、NVIDIA の GPU はデジタル通貨のマイニングに熱望されるツールとなった。
Bank of America Securities シニア半導体アナリスト、Ph.D の Vivek Arya 氏は、次のように語る。
「推奨される使用法ではないが、暗号通貨のマイニングはブームと崩壊を繰り返し、問題を引き起こしている。つまり、ゲーム用カードが在庫切れになると価格が吊り上がり、暗号通貨のマイニングのブームが崩壊すると、ゲーム業界で大きな混乱が起きた。」
NVIDIA は、マイニング専用に簡素化された GPU を作成したが、それでも暗号通貨マイナーがゲーム用 GPU を買い占め、価格の急上昇を止めることはなかった。在庫不足は終了したが、NVIDIA は昨年、新しい 40シリーズ GPU を前世代よりもはるかに高い価格に設定し、一部のゲーマーの間で大きな価格ショックを引き起こした。
現在は供給過多であり、最近報告された四半期のゲーム部門の収益は、前年比で 46% 減少した。
しかし、AI ブームにより、NVIDIA は最新の収益報告で予想を上回った。Microsoft や Google などのテック大手が、ChatGPT のような大規模言語モデルのトレーニングに使用するエンジンとして NVIDIA A100 を数千台、自社のデータセンターに導入しているためである。
Jensen Huang 氏は、次のように語る。
「私たちはそれらを 1 台ずつではなく、8 台をパックにして出荷している。」
NVIDIA の DGX A100 サーバーボードの価格は、約20万ドルだと推定されている。8 基の Ampere ベースの GPU を搭載しており、ChatGPT の驚くほど高速で人間らしい応答を実現するために連携して動作する。
OpenAI の自動生成音声:「私は膨大なテキストのデータセットでトレーニングされており、幅広いトピックスに関するテキストを理解し、生成することができる。」
生成 AI で競争しようとしている企業は、どれだけ多くの NVIDIA A100 を保持しているかを公然と自慢している。例えば Microsoft は、ChatGPT を 1万基でトレーニングした。
Bank of America Securities シニア半導体アナリスト、Ph.D の Vivek Arya 氏は、次のように語る。
「NVIDIA の製品を使用してより多くの計算能力を追加するのは、非常に容易である。一旦、その計算能力を追加すれば、計算能力が今日の価値創造において基本的な要素であることが明らかになる。」
そして、Ampere の次の世代である Hopper は、すでに出荷を開始している。生成 AI の使用例には、リアルタイム翻訳や即時のテキストから画像へのレンダリングがある。しかし、この技術は非常に説得力のあるディープフェイクの生成に使われており、それが危険な偽造情報を生み出す可能性があるということを示している。
CNBC のインタビュアー:「人々が持つこれらの大きな懸念に対して NVIDIA が講じている対策や取り入れている保護策は?」
NVIDIA 応用ディープラーニング研究担当 VP、Ph.D の Bryan Catanzaro 氏は、次のように語る。
「はい、AI がどのように使用されるかについて業界として構築している保護対策は、非常に重要だと思う。動画が現実世界で作成されたものなのか、あるいは仮想的に作成されたものなのかを知ることができるように、コンテンツの認証方法を見つけようとしている。テキストや音声についても同様に取り組んでいる。」
3. 地政学的リスクとその他の懸念点
しかし、生成 AI ブームの中心にいる NVIDIA が、広範な市場の懸念から影響を受けないというわけではない。
2022年10月に、米国は包括的な新たな規制を導入し、NVIDIA の A100 を含む最先端 AI チップの中国への輸出を禁止した。
CNBC Business News の Katie Tarasov 氏:「NVIDIA の収益の約4分の1は、中国本土から来ている。新しい輸出規制に対する投資家の不安をどのように鎮めるのか?」
Jensen Huang 氏は、次のように語る。
「NVIDIA の技術は、輸出規制の対象であり、NVIDIA が提供する技術の重要性を反映している。最初に行うべきことは、規制に準拠することである。そのための急激な変化と製品の再設計を行うために数ヶ月は混乱していた。それでも、中国の商業顧客に対し引き続きサポートできるようになった。規制に準拠した部品を使用して、中国の顧客にサービスを提供し、サポートできることを喜ばしく思う。」
しかし、NVIDIA にとってさらに大きな地政学的リスクは、台湾の TSMC に依存していることかもしれない。
Evercore ISI シニアマネージングディレクターの C.J. Muse 氏は、次のように語る。
「2 つの問題がある。1 つは、中国がいつか台湾を支配するかどうかであり、もう 1 つは、TSMC に対抗できる有力な競合他社が存在するかどうかだ。現時点では、Intel が積極的に取り組んでいる。彼らの目標は2025年までに達成することであり、我々は見守ることになる。これは、NVIDIA だけのリスクではない。AMD、Qualcomm、さらには Intel にとってのリスクでもある。」
これが、米国が2022年夏に CHIPS 法(CHIPS Act)を可決した大きな理由の 1 つである。この法律は、チップ企業に対し米国内での製造を奨励するために 520億ドルを確保するもの。現在、TSMC はアリゾナ州に 2 つの半導体製造工場(ファブ)を建設するために 400億ドルを投資している。
Jensen Huang 氏は、次のように語る。
「事実、TSMC は非常に重要な会社であり、世界にはそれ以上の企業が存在しない。多様性と冗長性への投資は、我々自身と彼らにとっても必須である。」
CNBC Business News の Katie Tarasov 氏:「NVIDIA の製造の一部をアリゾナに移しますか?」
Jensen Huang 氏:「もちろんです。アリゾナを利用します。」
依然としてチップ不足という問題がある。需要と供給のバランスを取り戻すにつれて、一部のチップの価格は下落している。しかし、NVIDIA にとっては少なくとも今のところ、チャットボットのブームが 同社の AI チップへの需要が増加していることを意味している。
Bank of America Securities シニア半導体アナリスト、Ph.D の Vivek Arya 氏は、次のように語る。
「彼らにとって最大の問題は、どのようにして先行していくかである。なぜなら、顧客が競争相手にもなり得るからだ。Microsoft は内部で設計しようと試みるかもしれない。Amazon や Google は、すでに内部で設計している。」
Tesla や Apple も独自のカスタムチップを設計している。しかし、Huang 氏は、競争は総じて良いものだと言う。
Jensen Huang 氏は、次のように語る。
「世界のデータセンターが必要とする電力量は増加している。最近の傾向では、それが非常に速く増加していることがわかる。これは、世界にとって本当の課題である。」
この発言は、割と面白い。
そもそも GPU は ASIC(Application Specific Integrated Circuit)に比べて消費電力効率が悪いことは広く知られている。例えば、Google は本課題を解決するため、TPU(Tensorflow Processing Unit)を開発している。
このような課題がありながらもこの問題に言及するのは、すでに秘密裏に開発している製品があるからか。それとも優等生的な回答をしただけか。
CNBC でもう少し追撃してほしかった。
4. Amazon、自動運転車、そしてその先
AI と ChatGPT が NVIDIA に多くの話題をもたらしているが、Huang 氏がフォーカスしている唯一のことからはほど遠い。
Jensen Huang 氏は、次のように語る。
「モデルをこのコンピューターに組み込めば、それは自動運転車である。そして、そのコンピューターをここに組み込めば、それは小さなロボットコンピューターである。」
CNBC Business News の Katie Tarasov 氏:「Amazon で使用されているようなものですよね?」
Jensen Huang 氏:「そうです。」
Amazon などは NVIDIA を使用して、倉庫内のロボットに動力を供給し、巨大な空間のデジタルツインを作成し、毎日何百万もの荷物の流れを最適化するためにシミュレーションを実行している。
NVIDIA のロボティクスラボで使用されているこのような運転ユニットは、かつて携帯電話で失敗した Tegra チップにより動力を供給されている。現在、Tegra は世界最大の eコマースを支えるために使用されている。
また、Tegra チップは、2016年から2019年まで Tesla Model 3 にも使用されていた。現在、Tesla は独自のチップを使用しているが、NVIDIA は Mercedes-Benz などの他の自動車メーカー向けに自動運転技術を開発している。
NVIDIA 自動運転車部門 テクニカルマーケティング 責任者の Tim Wong 氏は、次のように語る。
「我々は、それを NVIDIA Drive と呼んでいる。基本的に NVIDIA Drive はスケーラブルなプラットフォームである。緊急ブレーキ警告、衝突前警告、あるいはクルーズコントロールのための車線維持といったシンプルな ADAS(Advanced Driver Assistance Systems)や、あらゆる状況、あらゆる種類の天候で運転するロボタクシーなどに広く使用されている。」
NVIDIA はまた、まったく異なる分野でも競争しようとしており、独自のデータセンター CPU である Grace をリリースしている。
CNBC Business News の Katie Tarasov 氏:「ゲーミングのコアビジネスに完全に集中してほしいと願うゲーマーには、どう答えるのか?」
Jensen Huang 氏は、次のように語る。
「もし物理シミュレーションでのすべての取り組みや人工知能がなければ、最近の GeForce RTX で行ったことは不可能だっただろう。]
2018年にリリースされた RTX は、新技術であるレイ トレーシングを搭載した。NVIDIA にとって、次なる大きなグラフィックスの進化だった。
Jensen Huang 氏は、次のように語る。
「コンピュータグラフィックスとビデオゲームを次のレベルに引き上げるためには、我々自身を再発明し、自己破壊する必要があった。基本的には、光の経路をシミュレートし、生成 AI ですべてをシミュレートする。つまり、1 ピクセルを計算し、AI で他の 7 つを想像する。これは本当に驚くべきことである。ジグソーパズルを想像してほしい。あなたに 8 つのピースのうちの 1 つを与えたら、どういうわけか AI が残りを埋めるのだ。」
言いたいことは、「他のことを真剣にやっていなかったら、よりリアルなゲームを作成するための必須技術を開発できなかった。」ということだろう。要は、ゲーマーにリアルな描写を提供するためには、より新しい GPU や技術が必要だったという説明をしようとしたと推察する。
また、ジグソーパズルの例については、もしかすると複数の人間でジグソーパズルをするイメージをして説明していたが、それが省かれているのかもしれない。そもそも、「1 ピクセルを計算し、AI で他の 7 つを想像する」だけなら、生成 AI でなくても既存技術の自動計算でできる。ここで言いたいのは、それだけではなくて、多数のプレーヤーが行う多数の行動がさまざまな影響をあらゆるところに与えるということではないか。
現在のゲームでは、ユーザーが自身のプレイしているキャラクターの視点を変えたり、マルチユーザで他のユーザの行動(何かを壊す、行動する など)が自身の世界に影響する(一緒に対象の敵を倒す、何かが破壊される など)といったことはよくある。事前にプログラム化(ルール化)しておこうとすると、多数のパターンに対応するようにコード量や、それを実行する処理がふくらんでしまう。そのため、これらのコードや演算量を減らしたいと考えて、その手段として生成 AI を使用している、という主張だと推察する。ゲームの世界でプレーヤーAとプレーヤーBが共同でプレーしている場合、どちらかが選択した行動(位置を変える、移動する など)によって、もう一方のプレーヤーの景色も変わるというわけだ。
具体的に説明してみよう。プレーヤーAが太陽の方を向いていたときに、太陽とプレーヤーAの視界の間に、プレーヤーBが入ってきたら、プレーヤーAの視点は遮られるだけでなく、光の当たり方も変わる。これにより、プレーヤーAの遮られていない部分の色の見え方も変わって見えるかもしれない。
逆に、プレーヤーBが今度はさらに位置を変えて、プレーヤーAにいきなり太陽が当たるようになったとする。レイ トレーシング無しだと、特にプレーヤーAにとってはプレーヤーBが居なくなっただけだが、実世界で同じことが起きると「眩しい」と感じるようなケースをレイ トレーシング有りでは実現できるかもしれない。このような物理現象を踏まえて、攻撃の幅が広がる、なんてことがあるかもしれない。
同じように、ジグソーパズルの例で、プレーヤA、プレーヤーBが共同でプレーしているとする。それぞれ自由にピースを選ぶが、ひとたびピースを正しい場所に配置されると、自動で周辺の7ピクセルも埋まるとする。全く関係ない場所、例えば、大きなジグソーパズルにおいて、A は左上、B は右下というように離れて作業している場合にはあまり影響はないが、近い場所で作業をしているときには、A が正しい場所に置いたピースのおかげで周りの7つのピースも自動的に埋まってくれたら、B が考えなきゃいけないことや選択肢が減らせる。これで、より早くジグソーパズルを正確にクリアできる。
みたいな感じだろうか。
要は、「生成 AI が得意としている文脈だったり背景を継続的に長い間読み取って人間にとって自然な返答を返す、という部分が応用できる」と言っているのではないか。レイ トレーシングにより、ゲーム内でのリアルな描写の実現に大いに役立つ、と。
が、詳細は論文とか実際の技術文献、プログラムを見ないとなんとも言えないかなと思う。
レイ トレーシングの詳細は、以下の Dospara plus の記事が分かりやすいと思ったので紹介させていただく。興味のある方は確認してほしい。
レイ トレーシングは現在、『サイバーパンク2077』、『フォートナイト』、『Minecraft』など、約300のゲームで使用されている。そして、NVIDIA GeForce GPU をクラウド上で使用することで、1,500以上のゲームをほぼどんな PC にもフルクオリティでストリーミング可能にする。
これは、実世界の状況下で物体がどのように振る舞うかをモデリングするシミュレーションを可能にする要素の一部である。気候予測や、数百万マイルの仮想道路によって情報提供される自動運転技術などを考えてみてほしい。これはすべて、NVIDIA が Omniverse と呼ぶものの一部であり、Huang 氏が NVIDIA の次の大きな賭けとして指摘しているものである。
Jensen Huang 氏は、次のように語る。
「現在、自動車産業から物流倉庫、風力タービンプラントまで、700以上の顧客が Omniverse を試しており、その進歩には非常に興奮している。恐らく、NVIDIA の技術のすべてをワンストップで使用・経験できるものとなり、コンピュータグラフィックス、人工知能、ロボティクス、物理シミュレーションのすべてが 1つになる。Omniverse に大いに期待している。」